私は2008年9月28日に開催された日仏経済学会主催の日仏交流150周年記念国際会議「日仏経済学会主催・グローバル化時代の人間責任と連帯経済」に出席した(於:早稲田大学)。世界的に深刻な影響を与えている金融危機問題についても活発な議論が交わされたが、アジア連体経済日本フォーラムの北沢洋子氏(評論家)の報告を中心に会議の模様をお伝えする。
北沢氏は、金融危機問題に対するグルーバル・ガバナンスおよび、金融危機に向き合うに日本の姿勢ついて次のように問題提起する。
▼金融危機問題
われわれは 1929年の大恐慌以来の深刻な金融危機に直面しており、グローバルな視点で力強い国際協調行動が必要とされている。にもかかわらず、いちばんの問題は主要国の政治的りーダーシップが欠けているということだ。日本はもちろん、米国、ドイツ、英国など現在の首脳は選挙を控えてレームダック化しているか、不人気で国内問題に対応するのに精いっぱいという状況だ。その点、今年就任したフランスのサルコジ大統領は6年の任期があり、その地位は安泰でもあるが、積極艇に行動しており、期待が持てるのではないか。
金融危機の元凶は、フリードマン流の新自由主義に基づき、市場は「神の見えざる手」に任せて規制は可能な限り撤廃するべきだという発想だ。詐欺同然のサブプライム・ローンを貧困層に売り込んだ住宅金融会社、それを買い取って証券化し、世界中のファンドや金融機関に売りさばいて巨額の利益をおあげてきた住宅資金融資公社、投資銀行、また、証券化した金融商品に無責任にトリプルAなどの信用格付けを与えて手数料稼ぎに走った格付け会社などを厳しく監督する政府機関が不在だった。宇宙工学などを動員して複雑な計算式を駆使して、この一連の取引を助けたのが金融工学だ。金融イノベーションなどと持てはやされてIQでは最高レベルの人材を集めたが、結局、彼らのリスク分散はイルージョンに過ぎなかった。
IMF・世銀の責任も大きい。IMF第4条では、加盟国の経済診断をすることになっているが、先進国につては、出資国であることに配慮して、ほとんど実施していない。米国の異常な金融緩和がもたらした住宅バブルについても、日本の巨額の財政赤字についても、一度も警告を発したことがない。ところが、IMFは途上国に対しては、高飛び者に構造調整プログラムと称して、新自由主義を振り回し、金融市場開放などを強要した。結局は、グローバルなガバナンスが不在だったのだ。
▼自衛隊のイラク戦争への派遣問題
また、イラク戦争への自衛隊派遣は憲法違反だとして、以下のように説明する。
日本政府がイラク戦争に自衛隊を派遣させたことに対し、国を相手に憲法裁判を起こせなかった。民主主義には三権分立が基本要件だ。司法が行政をチェックするため、行政の憲法違反を裁く憲法裁判所が必要だが、日本にはない。先進国で憲法裁判所がないのは日本だけだ。
このため、私がイラク戦争への自衛隊派遣を憲法違反だと提訴したのは、東京地裁の民事部だった。民事では、国家の行為が私に与えた個人的な損害を明らかにして、損害賠償を請求しなければならない。結局、民法で争の争いは敗訴になった。
しかし、名古屋地裁に集団提訴した裁判では、「イラク戦争への自衛隊派兵は憲法違反である」と判決が下り、原告側の勝訴となった。ところが、賠償の請求は却下され、この点は原告の敗訴になったが、国は上告できないために原告の勝利は確定した。こうしてみると、日本は国が倫理的に責任をとらないことがわかる。
▼質疑応答
以下、フロアからの質問(Q)に平沢氏が回答した。
Q:金融危機について
金融危機は資本主義の崩壊ではないか。人間の責任についてもっと、議論する必要がある。なぜ連帯経済か出てこないのか。米国大統領選で民主党が勝利したとしても、弱い政権にならないだろうか。なぜなら予算がないためであり、これは何もできないことを意味する。アイデンティティー化する必要がある。レーガン政権、サッチャー政権が登場した時、フリードマン流の新自由主義を政策の柱に掲げた。市場経済原理の貫徹、小さな政府の実現、規制の撤廃が新自由主義のエッセンスだが、今、その大原則が根本的に否定されている。世界をどうするか?専門家が安全保障について考えるべきである。グローバルな問題とローカルな問題について議論することが重要である。
Q:NGOはどうあるべきか?
NGOと、簡単に言って欲しくない。なぜなら、NGOには多様性があり、多様でブルーラルな連帯が求められている。日本社会ではそこが余り理解されていない。途上国問題についてのNGOは持続性、アカンタビリティーが必要である。また、結果に対して実施するかは議論するのに値する。シラク前仏大統領は連帯のグローバル化を頻繁に使用していた。
Q:韓国では連帯という言葉を頻繁に使用するが、それはなぜか?しかし、実際は内と外との構造があり、農村共同体が上手く関係を持っていないのではないか。
連帯と言うが、「市民経済」に置き換えてはどうか。マイクロクレジットが良い例である。大手銀行のクレジットに対して、マイクロクレジットはSolidarity Finance(連帯金融)と言われる。なぜなら、現在、マイクロクレジットはUNDP、世銀のペットプロジェクトとなっているため、途上国の現地NGOはこれを区別したいと考えるためだ。
このほか、会議で注目された発言を紹介する。
▼アジア太平洋資料センターの井上礼子氏
どのように訴えて行くかが重要である。具体的に行動して行くことが重要ではないか。貧困層の人達とどのように協力関係を築けば、現地の経済状態が改善されるのかを念頭に置いて行動すべきではないか、責任とは包み込むというものではないか?
▼早稲田大学の西川潤名誉教授
言葉は非常に重要である。概念のインプリケーションがあり、社会の立場によって異なる。常に言葉と概念、概念と事実が重要である。人間と言うと、human rightsであるが、これはクリスチャン、ユダヤ人の言葉である。インドでは、human dignity(人間の尊厳)となり、歴史的な意味が持たれる。また、ガンジーはアンシサ(愛)と言って「愛=人権」とした。言葉をどう使用するか。例えば、沖縄開発や北海道開発を考えた場合、常に政府からの押し付けであった。一方、スリランカのサルファ氏は「開発=目覚め」とし、真理への目覚めとした、この場合、言葉が前者と比較して逆転するのである。
日本は途上国援助に際し、self help(自助努力)を促すことを重視するが、これは、お金を余り出資したくないという本音が透けて見える。1.自助、2.幇助、3.控除とあるが、自助のためには政府のサポートも必要である。言葉を再度見直す必要がある。自分の生活の中の豊かさを見直す必要がある。
▼大阪経済法科大学アジア太平洋研究所の武者小路公秀氏(前国連大学副学長)
(2010年に生物多様性の会議が開催される。その会議に向けて、10月5日にNPOが立ち上げあれ、武者小路氏はそのNPOの発起人に就任された)
仏教では常に生命の多様性を尊重する。これは、環境のみではなく、文化的対応である。墨子は平等が非常に重要であると言及した。目下が目上に対する責任と言うと、個人が国家に対する責任を思い浮かべるが、そうではない関係を上手く言う必要がある。アジアには元々連帯の考え方があった。それは絆を大切にする意味を持つ。例えば、アジアでは恩子主義があり、個人的なネットワークが強いという指摘する研究者もいる。資本主義を抑えるヨーロッパと言った普遍主義的なことも重要である。
会議を振り返って
北川氏がご指摘された通り、その後のサルコジ大統領の活躍は目を見張るものある。ロシア、中国、米国などとの首脳外交を繰り広げ、11月14日、ワシントンでの第1回G20緊急国際金融会議開催に漕ぎつけた。今日の世銀・IMF体制が機能不全に陥っているため、新しい国際金融の枠組み、新しい基軸通貨のあり方を議論しようという別名「ブレトンウッズ2」会議だ。
世界経済の新たな枠組みを議論する歴史的な会議を主導するのが、サルコジ大統領。08年3月には、フランスで第2回会議が開催される予定だ。本来なら、サルコジ大統領の役割は、日本の総理が果たすべきだった。なぜなら、07年いっぱいは、日本がG8、先進国首脳会議の議長国だからだ。洞爺湖サミットを終えただけで達成感に浸った福田前総理は、そのあとの大きな課題が待ち構えていたことなど想像もできなかったのだろうか。
世界経済の金融危機の波や環境問題に甚大なる被害を受けるのはアフリカをはじめとした発展途上国である。例えば、換金作物を栽培せざる得ない状況を強いられているアフリカでは、先進国の都合で、輸入を減らされたりすると、たちまち、一層深刻な貧困生活を余儀なくされるという状況がある。EU(欧州共同体)などがCAP(共通農業政策)で自国内の農業に手厚い補助金を支出し、過剰な農産物を国際市場に放出、それが、途上国の農産物の競争条件を低下させ、存立基盤を崩壊させていることは、夙に指定されている。改めて、連帯の持つ意味を考えさせられる会議だった。
余談だが、日本で流行しているエコバッグが、本来の目的を逸して、ブランドの名前が入ったエコバッグを持つことがファッションになりつつあるのが気がかりだ。寧ろ、敢えてエコバックを購入せず、家にある素朴な布袋を抱えることこそ、エコ活動につながるのではないだろうか。 (堀尾 藍, AI HORIO)
謝辞
ご多忙の中、本原稿作成にあたってご丁寧に、ご発言内容について補足していただきました北沢洋子先生に深く感謝します。ご講演および、質疑応答をまとめてご紹介しましたが、文責は、あくまで、堀尾にあります。
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