滝田監督のスピーチから
映画そのものに感謝している。日本映画について評価を頂いたことに感謝する。
この映画は先が見えない困難なものだった。納棺師自体がネガティブであるため、この映画は非常にデリケートな問題を抱えている。観客がどのようにこの映画を鑑賞するのか、分からなかった。
納棺の現場に立会い、何かが変化した。納棺に初めて立ち会った際、恐怖心を感じたが、その現場は、不思議な空気に包まれていた。残された人は多様な感情を持つ。泣いたかと思ったら、次には笑っているのである。この経験の後、潰れてしまったお風呂等、滅びて行くものに対して儚さを感じるようになった。撮影しにくい場所が最適な場所と感じるようになった。
最初は小さな映画館から上映し、結果として全てが成功したが、これは日本映画の中でも珍しい。映画の完成後、上映までに13カ月を必要とした。その間、周囲に愚痴を言っていたが、モントリオール映画祭で国際賞を受賞したため、次はオスカーを狙うと冗談で言ったら周囲が後押ししてくれた。
質疑応答
Q:なぜ、13カ月を要したのか?
A:試写会を何度も実施し、口コミで映画の良さが広がった。
7月に新作に取り掛かる前、5月、6月にアカデミー賞に出品することを周囲に話をした。この映画の宣伝を担当していただいた達の熱意が凄かった。
Q:アカデミー賞の受賞スピーチは事前に用意したものか?また、次もアカデミー賞を狙うと言うが、どのような計画があるのか?
A:授賞式にまで出席して、受賞のスピーチを準備しない訳はない。周囲に振り回されず、自分を信用すればよい。私は自分が信用するものを大切にする。
人が覗きたくない所を覗くのが映画監督である。私には死生観がない。死をテーマとする作品に興味を抱く自分に興味を感じた。昔から日本人は皆が自宅で亡くなるのが普通だったが、現在は死から遠ざかっていると思う。
Q:アカデミー賞の受賞後と受賞前とでは態度が変わったか?
A:受賞後、数字が倍になった。
興行収益60億円は成功である。しかし、若者が観ればもっと数字に表れる。なぜ、若者は映画を観ないのか?もっと映画館へ
行きましょうと呼びかけたい。
Q:日本人も外国人も納棺師に興味を感じたのではなく、職探しを必要とする現在の深刻な状況に興味を感じたのではないか?
A:日本は地方から大都市に移動し、職を探す。現在はどこも仕事がない。特に地方の方が仕事がなく、切実な問題である。
納棺師の女性が主演の本木雅弘氏に演技指導をしたが、この納棺師に「なぜ、納棺師になったのか」と尋ねた時、「ただ社員になりたかっただけ」と返事があった。
どんな仕事でも、やらなければならないという深刻な現実がある。
Q:サムライ映画が外国人受けするが、この映画が世界でも受け入れられるのはなぜか?
A:極めて日本らしい映画だと思うが、なぜ、海外の人達に受け入れたかはわからない。万人に共通する感情(喜怒哀楽)が受け入れられてからではないか?死は世界万人、誰にでも訪れるものである。
普段、私達は死を感じない。そのため、この映画を通して自分の葬儀の練習になるのではないだろうか。
生きていくことは滑稽である。人が真面目な程、可笑しいと思って映画を撮影している。人には、他人の不幸は楽しい、という気持ちがあり、人はその感情と向き合った時に 葛藤する。
タイトルを見ただけでは暗い映画だと思う。けれども、実際はコミカルである。これは観客を裏切りたかったためである。
Q::ドイツでは公開されているのか?
A:配給は決定しているが、具体的な公開日は未定である。フランスは5月の末、イタリアからは来週から公開される。
Q:国際映画祭で受賞しても、作品が国内では評価されない傾向があるがどうか?
A:なぜ、日本人が多く映画館で鑑賞しないのか、私も知りたい。
日本では多くの映画が製作され、その数は年400本となる。けれども、それらの多くが観られていない。なぜ、若者が映画館で映画鑑賞しないのか、分析する必要がある。
Q:グローバル化について映画人としての意見を聞きたい。現在進行しているグローバル化についてどう思うか?
A:専門家でないため、発言できない。けれども、自分が何を行いたくなくて、何を行いたいかは重要である。私の場合は日本人らしさ、が重要である。
Q:この映画のスタッフやキャストを見ると成功すると感じる。海外を意識したのか?
また、日本人が好む映画には1.サムライ 2.何か珍しいもの 3.死そのもの と考える。このことについてどう思われるか?
A:珍しいと言うことが何を指すのか分からない。また、海外の死について考えたことはない。日本で自殺が増えているが、死に対する価値観がゲームのようになってきているのではないかと恐れている。
<記者会見の後で>
世界的な不況の影響で、映画のように職を選択できないケースが多く見られる。元チェリストの主人公が、いかにして納棺師の道を歩み、成長していくか、自分と重ねて考える人も多いのではないのか。監督が何度も口に出された「自分らしさ」とは、個性の大切さを問うものだと感じた。 (堀尾 藍)
滝田洋二郎監督